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修了生インタビュー vol.2

SRは将来のビジネスと人生の設計図。海外で経営を行う今も、揺るがない指針に

1. これまでのご経歴を教えてください。

matsumura02l 米国月桂冠株式会社 取締役社長 松村憲吾さん
入学:2012年4月、修了:2014年3月

京都大学大学院農学研究科を修了後、京都の老舗酒造会社である月桂冠に研究職として入社しました。以来20年間、同社で麹菌の酵素の研究という基礎研究領域から研究シーズを活かした新商品開発まで、多岐に及ぶ研究業務に携わりました。理系の私がMBA取得を意識したのは、入社10年目に社内での研究成果を論文にまとめ、博士号を取得したときです。専門性を高めたことが逆に「自分のキャリアパスを、研究領域に狭めたのではないか?」 と自問自答したのです。日本酒市場は年々縮小を続けており、当社も例外ではなくそのあおりを受けていました。研究を通じて収益アップに貢献したい気持ちはあるものの、製造・流通システムの中で一研究員が直接的に役立てる余地は大きくないと感じていました。そのような自分がこのまま仮に研究チームを率いる管理職となっても、部下のキャリアを自信を持ってマネジメントできないだろうとも思いました。そこで、一度職場の外へ出て経営論を学び、客観的に自分自身、会社や市場を俯瞰してみたいと思ったのです。
DBSを選んだのは、過去に会社から派遣された「技術経営とイノベーション」という全11回の勉強会に参加したことがきっかけです。その際の講師がDBSの先生方であり、実践的で「腹落ち」と「発見」にあふれる講義が強く印象に残っていたので、ぜひ同じ先生の元で経営論を学びたいと考えました。

2. 経営論と研究職としての実務をどのように融合されたのでしょうか?

アカデミアだけでなく実務家としても活躍されている先生方の授業では、他業種の事例にふれる機会が数多くありました。しかし、成功モデルをそのままCopy & Pasteしても職種的にも、企業風土に合わないことも多く、うまくいかないと入学当初は思っていました。そこで私は、学んだ知識や論理のキーとなる部分を一度抽象化し、自身の文脈に置き換えて具体化する「Steal」のプロセスを加えました。具体的には、授業中に新しく得た知識を「自分自身や会社の課題でいかに応用するか?」を考えてメモに記載。復習の際に、それを考え続け導き出した答えを課題レポートにまとめるという一連のルーティーンを2年間行い続けました。このトレーニングにより、実務への落とし込みをスムーズに行えるようになりました。
また、DBSの修了要件は、修士論文とは異なり「ソリューションレポート(SR)」と呼ばれます。学んだ経営論を修了後のビジネスでどう活かすか、具体的かつ論理的にまとめ上げることが求められるのです。自分の経営ビジョンを他者に提示するツールにもなりますから、論文や総説、経営企画書とを同時に書くことにも近いと思います。私は大久保隆先生にご指導いただきながら、ルーティーンで蓄積した課題レポートを取りまとめ、再構成し、縮小する日本酒市場の中で380年を迎える会社が生き残るための道筋を、現状分析と研究開発戦略の刷新を通して導き出しました。このSRは2020年春に月桂冠の米国法人の社長就任が決まった際にも自分で何度も読み返し、また関係者に読んでもらい、現地での中期経営戦略策定に役立てました。

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前列右端が松村さん。
松村さんの左隣がゼミ指導教官の大久保先生

3. DBSの学びを通して得た、一番の収穫を教えてください。

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一言でいえば、「自分自身を知ることができたこと」だと感じています。入学前は、経営論を学ぶことで、「経営も研究もできるスーパービジネスパーソンになれる」と思っていました。しかし修了した今は、自分ができること以上に「できないことの方がはるかに多い」と認識しています。戦略立案、財務分析、人材管理など、マネジメントとして行う仕事は多岐にわたりますが、すべてを完璧にこなせない自分自身をほとほと知ることで、周りの人を活かすこと、粘り強く育てること、組織としての底力を上げることを最優先に考えるようになったのです。この変化へのヒントを与えてくれたのは、異業種で活躍するクラスメートや先輩の修了生でした。彼らの多くは異業種の管理職や経営者で、私よりも経営に関する経験値が抜群に高いのです。グループワークで彼らとディスカッションをすると、主張を突き合わせるというよりは私の長所・短所を見抜いて、うまく活かしてくれるのです。こうした経験を糧に、自分自身の人材マネジメント指針とメソッドを構築していきました。DBS修了後に実際には課長職となり、初めて部下を持ちましたが、1年もするとマネジメントは周りから驚かれるくらいスムーズにいきましたね。
それから「意思決定」について、自分なりの型(在り方)が身についたと感じています。意思決定では、事実に対する判断や解釈の仕方がキーになりますが、自分中心の発想では偏ってしまい、より良い解を導くことができません。私が授業で教わって以来実践しているのは、自分から見える世界と、外から客観的に見る世界の2つを意識すること。思いつき、論理のどちらか一方ではなく、「自分とは何者なのか?」を客観的に意識しながら、判断するようにしています。経営とは、自分も他者もうまくコントロールして「人間力」を磨く総合格闘技。その積み重なりが「経営」であり「継営」だと考えています。

4. DBSの教育は、グローバルビジネスにも通用すると感じていますか?

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アメリカに渡ってまだ日は浅いですが、非常に手応えを感じています。もちろん、現地と日本では異なる商慣習や文化背景もありますが、DBS時代に「ビジネスの現場で理論を実践する」トレーニングをしっかり積んできたので、十分に通用していると感じています。
同時に国を問わず、「人」を尊重する姿勢が一番大切だとも実感しています。現地スタッフは個性も自己主張も強いですが、赴任した日から一人ひとりとの信頼関係づくりに努めてきました。毎日オフィスから工場に足を運び、共に作業をし、毎朝スタッフの目を3秒以上見て声掛けすることを愚直に繰り返しました。しばらくして歴代社長で初めて工場の制服をもらったときは、嬉しくて涙が出ました。社長として、そしてチームの仲間として受け入れてもらった証でしたから。関係づくりができれば、あとは自分のビジョンを伝え、それに従い2つの世界を意識しながら意思決定を進めていけばいい。おかげさまで今、従業員の全員が「この会社は変わった」「雰囲気が良くなった」と言ってくれています。

5. 出願を検討されている方へ。

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DBSでは教授陣と学生との距離がとても近い文化があります。先生方は修了生も含めた学生を「ビジネスの仲間」として本当に大切にしてくださるのです。人生の師匠とも言えるゼミの指導教授の大久保先生、各科目の先生方との個人的な親交は今でも続いていますし、在学中も修了後も何度も一緒に飲みに行かせていただき、いろんなお話を聞かせていただきました。40歳を過ぎてから仕事について相談できる師ができ、客観的・専門的な視点からアドバイスをいただけることは、本当に幸せなことだと感じています。また、修了後も苦楽を共にしたクラスメートたち、アドバイスをいただいた先輩たちと悩みを共有し合い、お互いをコンサルティングし合いながら多くのブレイクスルーを見出してきました。業種・立場を超えた幅広い人脈は、皆さんにとっても最高の財産になると思います。
DBSでの経験が自分と向き合い、解を得る、いわば皆さんの人生を変える素晴らしいターニングポイントになることを願っています。そして一修了生として、新しい仲間となる志の高い皆さんとお会いし、語り合える日を心待ちにしています。

※本記事の内容、肩書き等は2020年9月当時のものです。