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自社製帯地をイタリア人デザイナーに提供して作ったバッグの仕上がりを確かめる。細尾は西陣織メーカーの立場から、ビジネスを通したイタリアとの文化交流を進める伝統産業界でも異色の存在。 |
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西陣織メーカー
株式会社
細尾 
代表取締役社長
細尾
真生 (ほそお まさお)  |
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西陣織メーカーとイタリア職人工房の協業で新しい価値を持つ製品を創り出す
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創業1621年の老舗西陣織メーカー当主、細尾真生は商社マン時代にイタリア・ミラノのアパレル会社で培った人脈を活かし、次世代を切り拓く西陣織素材の新しい可能性を探り始めた。
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細尾真生は大学卒業後に大手商社に就職し、この関係で1970年代の終わりから80年代にかけてミラノのアパレル会社に勤務した。これを機会に築き上げたイタリア人脈を活用し、「文化の組合せ」が生み出す、新たな文化ビジネスを作り上げようとしている。
この典型がイタリアのデザイナー、ルーチョ・アントヌッチとの共同作業にみられる。細尾は自社で製作した、伝統的な西陣織の生地をアントヌッチに送る。これをアントヌッチがイタリアのデザイン・センスを駆使して、ショルダー・バッグに仕上げる。このようにして、日本の伝統的な柄とイタリアンデザインを組合せた製品開発を行なうのである。そして、出来上がった「組合せ戦略」の産物は、細尾が京都の御池通りで展開するセレクトショップ「キャッキャラ」で販売される。
細尾はイタリアの服飾文化と日本の伝統文化がぶつかり合うことにより、21世紀の日本を切り拓く新たな文化が創造できると考える。細尾は、アントヌッチとの共同作業を通じて、この「文化のぶつかり合い」が生み出す大きな可能性を実感したという。一方、アントヌッチは、西陣織に出会った際、「これは素晴らしい素材だ」と感動し、これを使って自分の感性で独自のコレクションを開発したい、と強く感じたという。
細尾は言う、「服飾の歴史の面から見れば、はるかにイタリアの方が先輩ですが、京都の文化とイタリアの文化がぶつかり合った時、今までイタリアにもなかった、京都にもなかった新しい文化、価値が生まれる。それが21世紀の新しい商品になって新しいマーケットが開かれるのです」。これは「文化の組み合わせ戦略」のエッセンスをついた言葉といえる。
細尾のような試みを行なう京都の伝統産業人は、例外的な存在である。多くの人びとは、依然として歴史的に形成されてきた伝統産業の「内なるネットワーク」の中で動いている。職人の分業体制により、西陣織は西陣織、友禅染は友禅染の閉鎖的なネットワークが出来上がっており、これはきわめて強固である。このため、この「内なるネットワーク」から抜け出し、活動領域を外へと広げることはきわめて難しいし、これには大きな抵抗感が伴う。もちろん、これらの業界内での情報の広がりや共有は密なものがあり、そのメリットを否定することはできないが、残念ながら、これらのネットワークは独自で外に広がり、新たな可能性に飛びつく力を持たない。
これを打ち破るひとつの方法が、「文化の組合せ戦略」で、この組合せを伝統産業の異業種間、伝統産業と非伝統産業、あるいは細尾のように、海外との間で図ることにより、京都の伝統産業には大きな展望が開ける。 |
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京都の西陣織帯地とイタリア人職人の手業のコラボレーション。西陣織にイタリアのボタンやリボンが縫い付けられたバッグは日本人では考えつかないデザイン。日欧の文化を超え良い物は一つの舞台で融合する。細尾はイタリアの職人と商談を始めるとき、「380年間ずっと京都で織物を作っている会社です」と自社紹介する。京都もイタリアも古い文化や物作りを大切に受け継ぐ気質は同じで、すぐに意気投合できるという。
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キャッキャラでは自ら接客もこなし、そこで得た日本人顧客の要望をイタリアの職人達にイタリア語で直接伝える。目指すのは生産者が直接販売するイタリア式ビジネススタイルだ
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