児玉 ゼミ
児玉ゼミで育まれる中小企業経営の実践知
~現役生と修了生がともに学ぶ場~

児玉 俊洋 教授
専門分野:中小企業
東京大学経済学部卒業
通商産業省・経済産業省で、中小企業政策、地域産業政策を中心に実務と研究の両面に従事。特に、「産業クラスター計画」の原型とされる首都圏西部地域における協議会組織の設立、経済企画庁において「景気ウォッチャー調査」の創設に従事。研究職としては、埼玉大学大学院政策科学研究科助教授、独立行政法人経済産業研究所上席研究員、京都大学経済研究所教授を歴任。日本政策金融公庫特別参与を経て2012年度より同志社大学大学院ビジネス研究科教授。

同志社大学大学院ビジネス研究科(以下、DBS)には、日本のビジネススクールでは珍しい「中小企業・地域経営」という特色科目分野があります。
今回、中小企業をご専門とする児玉俊洋先生のゼミにて、現役ゼミ生6名、修了生2名、そして児玉先生ご自身に、ゼミの魅力についてお話を伺いました。
今回取材に応じてくださった児玉ゼミの現役生・修了生の皆さん、そして児玉先生。
(左から順に、小西さん、黒田さん、河原さん、西澤さん、児玉先生、葉山さん、坂井さん、廣部さん、佐古井さん)
1. 児玉ゼミでは、どのような分野を研究する学生が多いですか?

- 児 玉先生
- 私の担当分野が中小企業、事業創造、産業集積であるため、これらの分野を研究したい方が中心に集まっています 。所属者はベンチャー企業を含む中小企業の経営者、幹部、後継者候補。そして公的支援機関や金融機関、コンサルティングファームなど中小企業の支援に携わる方々が多いです。
2. 現役生の皆様、ご自身の経歴と児玉ゼミを選んだきっかけをお聞かせください
- 佐古井さん
- 私は中小企業の取締役を務めています。立場上、中小企業ならではの課題や、これからの事業環境を乗り越えるためのヒントを得たいと考え、中小企業の専門家でいらっしゃる児玉先生のゼミで学びたいと思いました。
- 葉 山さん
- 私の実家は洋菓子店を営んでおり、将来的には家業を継ぐことを視野に入れています。家業を引き継ぐうえで直面するであろう課題をどう乗り越えるかを考えたとき、中小企業経営に関する体系的な学びが必要だと感じました。そうした中で、中小企業を専門に研究しておられる児玉先生のゼミで学ぶことが、家業の課題解決につながると考え、参加を決意しました。
- 廣 部さん
- 私は主に大学をクライアントに広告制作を行っています。18歳人口の減少により大学業界が厳しさを増すなか、今後は新たに中小企業をクライアントとして広げていきたいと考えています。児玉先生は中小企業を専門とされ、毎年中小企業にインタビューを実施されているほか、事業承継などに関するリアルな情報を蓄積しておられます。そのため、児玉ゼミを選びました。
- 河 原さん
- 私は中小企業庁の傘下にある公的機関で、中小企業の海外進出を支援するアドバイザーを務めています。そもそもDBSを選んだ理由は、児玉先生のご指導を受けられるからです。児玉先生は、10年以上にわたり中小企業へのインタビュー調査を継続され、その蓄積は非常に貴重なものです。膨大な資料やご経験には、外部の私たちが触れることのできないリアルな知見が含まれています。そのため、先生だからこそお持ちの知識やご経験を学びたいと考え、児玉ゼミを選びました。
- 西 澤さん
- 私は現在、大学発のスタートアップ企業に所属しています。小規模な組織で事業化を目指すなかで、ベンチャー企業ならでは、そして中小企業ならではの難しさを強く感じていました。そうした課題に取り組むにあたり、中小企業経営を専門とされる児玉先生のゼミで学ぶことが、自分にとって大きな助けになると考えました。児玉先生は、創業期の小規模ベンチャーから数百人規模の中小企業まで、幅広い企業を対象に研究・調査を行っておられます。企業の立ち上がりから成長していく過程を長期的に見てこられているため、多様な規模や発展段階に応じたご指導が可能です。私は現在まだ1年生ですが、児玉先生のもとで学ぶことで、実践的な知識や学びを得られると期待しています。
- 坂 井さん
- 私は長年にわたり、金融や財務の分野で中小企業の支援に携わってきました。その経験から、中小企業経営について幅広く学べるDBSに魅力を感じ、入学しました。現在は京都の税理士法人で、中小企業の事業承継や資本政策のコンサルタントとして活動しています。自身のキャリアと研究テーマが直結していることから、実務との往還を重視される児玉ゼミを志望いたしました。
3. 修了生の皆様、ご自身の経歴をお聞かせください
- 小 西さん
- 地方銀行に勤務しており、顧客の97%が中小企業です。業務では融資にとどまらず、事業承継やスタートアップ支援など、中小企業が抱える多様な課題の解決に日々取り組んでいます。
- 黒 田さん
- 今年3月にDBSを修了しました。児玉ゼミで取り組んだテーマをさらに深めたいと考え、現在は別の大学院で研究を続けています。
4. 児玉ゼミの特徴はどのようなところにあるのでしょうか?
- 児 玉先生
- 児玉ゼミの特徴の一つは、中小企業という共通のテーマのもとに学生やOB・OGが集い、深く交流できる「場」であることです。
- 小 西さん
- 児玉ゼミは、毎回数名のOBがシニアアシスタントとして授業に出席しています。私も今回シニアアシスタントとして、児玉ゼミに参加しました。
- 黒 田さん
- 中小企業の専門家である児玉先生のもとに多くの人が集まってくる。そこで生まれる「場」自体が非常に重要であり、さまざまな立場からの視点が持ち寄られることで、自分自身の見方が広がり、新たな気づきを得ることができます。まさに、この気づきこそが児玉ゼミの最大の魅力だと感じています。
5. ゼミの魅力が発揮された印象的な出来事はありますか?
- 黒 田さん
- 毎年、同志社びわこリトリートセンターで行われるゼミ合宿は、特に印象的です。私はこれまで連続起業家として6回ほど事業を立ち上げてきましたが、その一方で5回ほど廃業も経験しています。MBAにおいては、どうしてもスタートアップの成長に意識が向きがちでした。しかしゼミ合宿の際に、小西さんから「5回の廃業ってすごくない?面白いよね」と声をかけてもらい、自分自身の経験を別の角度から捉え直すことができました。

- 河 原さん
- 合宿には先輩方も参加されるため、直接ご助言をいただくことができます。さらに、合宿は長時間にわたるため、一度助言を受けた後に自分で考え直し、再度先輩に相談することもできます。このように、その場で課題を検討し、解決までにつなげられるのが合宿の大きな特徴です。こうした経験を得られること自体が、非常に貴重な場だと感じています。私が思うに、児玉ゼミほどOBが積極的に参加するゼミはDBSでも他にありません。定例のゼミでも、一度に6名から7名のOBが出席することがあり、この点はまさに児玉ゼミならではの特徴だと思います。今回(8月16~17日)のゼミ合宿では、全体で15人が参加し、その内訳は児玉先生を含む現役生が8人、OBが5~7人。これだけ多くのOBが加わるのは非常に珍しいことです。こうしたOBの積極的な関与は児玉ゼミの大きな強みであり、他のゼミにはない稀有な点だと感じています。
6. 児玉先生がゼミ生に指導するときに心がけている点はございますか?

- 児 玉先生
- 私は常に研究が“実践に役立つこと”を意識しています。ソリューションレポートにおいては、DBSで学んだ知識や理論を活用しつつ、自身が経営または所属する企業・組織やその中での自身の活動の実践に役立つテーマに取り組むことを勧めています。
- 小 西さん
- 私が児玉ゼミで学んでいたのは「経営理念」という見えないものの効果を可視化することでした。DBSを修了してからもずっと、お客様に対して経営理念に対してのレクチャーを継続しており、児玉ゼミで勉強したことは、ほぼ毎日のように実務に活かされています。
- 河 原さん
- 私は現在、中小企業大学校でも講師を務めています。これまでも「海外展開」をテーマとする講義を行ってきましたが、児玉先生のご指導を受けたことで、その内容に大きな変化が生まれました。従来は「海外に進出すれば利益が上がる」という比較的単純な考え方をベースにしていました。しかし児玉先生から中小企業のあり方や、日本国内で設備投資が伸び悩むなかでの海外展開の意義を学んだことで、私自身の視点が変わりました。単なる海外進出ではなく、日本国内での付加価値や技術力を高めたうえで海外に展開する必要があるという考え方を取り入れるようになったのです。講義内容をこのように変えたところ、経営者や社長といった受講者の反応がより良くなりました。
7. 最後に児玉先生から未来のゼミ生へメッセージをお願いします
児玉ゼミでは、研究を会社の事業に直接役立てたい方、あるいは将来的にご自身の事業や業界をより深く考察し発展させたいと考える方を心から歓迎します。
私たちが目指すのは、単に事業を発展させることだけではありません。企業は、世の中に役に立つからこそ対価を得ることができます。したがって、私たちは学生の学習を支援する仕事を通じて、彼らが自身の存在意義を再認識する手助けをしたいと考えています。そして、彼らが世の中で役割を果たすことがビジネスとして成り立つ、そのような循環を社会に生み出すことを目指しています。
未来を担う皆さんが、それぞれの事業を通じて社会にどのような価値を提供できるのか。そして、それをどのようにして持続可能な形にできるのか。そういった問いを共に探究できることを楽しみにしています。
※本記事の内容、肩書き等は2025年月8月時点のものです。
(取材 同志社学生新聞局)